第4巻の刊行にあたって

東京大学法科大学院における学生の自主的な研究やリサーチ,論文執筆を慫慂し,その成果を公表する場として,学生が主体となり教員もこれに協力して毎年1回刊行してきた本ローレビューも,今回で第4冊目となる。前巻にも増して数多くの学生諸君からの投稿を受けて厳正な選考を行い,また,先生方からのご寄稿もいただいて,一層充実した内容のものとなり,大変嬉しく思っている。最終学年から修了後の新司法試験受験の前後を通じ,時間に追われ緊迫した状況の下にありながらも,熱意にあふれ献身的に編集作業に当たってくださった編集委員のみなさんに,心からお祝いと感謝を申しあげたい。

前巻のはしがきでも述べたように,法科大学院はいま,極めて厳しい状況に置かれており,私ども関係者は,誤解や根拠の不十分な批判に対しては,毅然として反論し,また説明を尽くすとともに,改めるべきところがあれば進んで自己変革を行い,法科大学院での教育をより良いものとするよう努めている。ただ,肝心の全国の法科大学院やその教員,学生の中に,そのような状況に過度に動揺し,法科大学院制度本来の趣旨からはずれ,あるいは背馳すらするような反応を示す向きも見受けられ,徒労感や失望感を覚えることがある。そのような中で,東京大学法科大学院においては,例えば,夏季に合宿形式で行われるサマースクールに参加して,諸外国から招聘した一流の研究者・実務家による英語での授業を受け,国際的な拡がりのある問題や先端的な問題について集中的に学修しようとする意欲的な学生がむしろ増えているという事実や,中学校や高校に出向いて,自分たちが考案し,工夫した教材や手法で法教育を行うボランテイア活動(この「出張教室」は,2009年度東京大学総長賞を受けることになった)などに積極的に参加する学生も少なくないという事実は,時として見失いそうになる法科大学院に対する希望や情熱を再確認させ,奮い立たせてくれるものである。基本的に学生自らの手(投稿と編集)による本ローレビューの継続的な刊行は,そのような希望の灯火の最たるものといえ,東京大学法科大学院の誇りとして永く受け継がれていくべきものだと考えている。

その灯火の継受をより確かなものにするとともに,照度を高め,照射範囲を拡げるため,今回の第4巻の刊行を機に,これまで,とりあえず電子ジャーナルの形でのみ刊行してきた本ローレビューを,既刊の分を含め,冊子体の形でも発行することにした。これにより,本ローレビューが,一層多くのみなさんに愛読され,活用していただけるようになることを期待している。

この冊子体での刊行については,特に,弁護士の柳田幸男先生から多大なご支援を賜った。柳田先生は,ハーバード・ロースクールの客員教授を務められたご経験などを踏まえた,法学教育・法曹養成のあり方についての幅広く深いご思索を基に,ロースクール構想をいち早く提示され,今日の法科大学院制度の創設につながる一連の議論の先駆者的な役割を果たされた方で,東京大学法科大学院についても,開設前より,運営諮問会議の委員として,さまざまにご指導,ご協力いただいてきたが,当初より本ローレビューの刊行を評価してくださっており,今回,このようなありがたいご支援のお申し出をいただくことになったのである。心から御礼申しあげたい。

2009年9月
東京大学大学院法学政治学研究科長
井 上 正 仁