第5巻の刊行にあたって

本年度もここに東京大学法科大学院ローレビュー第5巻を刊行することができた。2009年度には,弁護士の柳田幸男先生の御芳志に基づき第1巻から第4巻までを冊子体として刊行することができたが,この第5巻も電子ジャーナルとしての刊行と同時に冊子体でも刊行され,各方面で一段と利用しやすくなった。このようにして,本誌は,わが国の法律理論と実務の両面で確固たる地位を築きつつあることは,本誌の創刊について,当時教員側の担当者として,第1期生の編集委員の諸君とともに構想を練り実現に漕ぎ着けた私にとっても大きな慶びである。

この第5巻には,厳正な審査の結果,学生諸君の投稿論稿6編が掲載されることになった。投稿数及び掲載数のいずれも前年度より増加している。これは,学生諸君の研究への関心と研究水準の両面での高まりを裏付けるものであり,本誌を継続的に刊行することの目的が達成されつつあることを実感する次第である。

法科大学院は,法曹の養成を目的とする教育課程であり,その限りでは,法科大学院生は各種の理論科目で教えられることを確実にマスターするとともに,理論と実務との架橋という法科大学院の位置づけから,実務科目を通じて法律実務の基礎も確実にマスターすることが求められる。しかも法曹としての資格を得るための新司法試験は,東京大学法科大学院の学生にとっても必ずしも容易に合格できるわけではないという現実からは,法科大学院は理論と実務の基礎をマスターすることにもっぱら焦点が当てられることも理由がないわけではない。しかし,そのことから,法科大学院が既存の理論と実務の知識を身につけさせることを目的とした専門学校的な教育課程を提供するものであるという理解をするとすれば,少なくとも東京大学法科大学院については,それは大きな誤解であるといわなければならない。実務の世界へ一歩踏み出せばすぐに実感できるであろうが,世の中の法律家に解決が求められる問題に,既存の確立した知識だけで答えが導かれる問題はほぼ皆無といってよい。解決のあり方が確立していない未知の問題に対してマクロとミクロの両面で適切な解決を図るという創造的な能力こそが,一流の法律家に求められるのであり,そのような資質をもつ法曹こそが東京大学法科大学院が養成しようとする法曹である。そのような法曹の資質を涵養する上で,自ら問題を発見し,かつその問題に対する解決のあり方を提示するという研究論文の執筆作業こそ,最も有意義なトレーニングである。

東京大学法科大学院が本誌のようなジャーナルを発行し,それに対する投稿を学生諸君に推奨していることについては,法科大学院の教育の本筋を離れた変わった試みと評する向きも少なくないと思われる。しかし,法律家の基礎的な能力の育成の旗印の下に,既存の知識を身につけさせることに汲々とした教育が展開されているとすれば,法科大学院を開設している研究機関でもある大学の自殺行為であるといわなければならない。そのような意味で,東京大学法科大学院ローレビューの刊行こそが,本来の法科大学院教育の王道を歩むものであると信じている。本巻には,学生諸君の投稿論文に加えて,東京大学法科大学院教員の執筆した9編の論稿も掲載されている。この点も,第1巻以来のことであるが,当初は,法学協会雑誌や国家学会雑誌という東京大学大学院法学政治学研究科・法学部の研究成果の公表を目的としたジャーナルに投稿資格のない実務家教員の論文掲載の場としてスタートしたものの,次第に研究者教員の論文掲載も増加しつつあり,本誌は,東京大学大学院法学政治学研究科・法学部の研究活動の中でも重要な意味を持ちつつあることは大いに注目されることである。

本巻には,学生諸君の投稿論文に加えて,東京大学法科大学院教員の執筆した9編の論稿も掲載されている。この点も,第1巻以来のことであるが,当初は,法学協会雑誌や国家学会雑誌という東京大学大学院法学政治学研究科・法学部の研究成果の公表を目的としたジャーナルに投稿資格のない実務家教員の論文掲載の場としてスタートしたものの,次第に研究者教員の論文掲載も増加しつつあり,本誌は,東京大学大学院法学政治学研究科・法学部の研究活動の中でも重要な意味を持ちつつあることは大いに注目されることである。

いずれにせよ,投稿者,編集委員のそれぞれの努力の結果,本巻が刊行されるに至ったわけであり,この点について研究科長として心からの感謝の意を表したい。

2010年9月
東京大学大学院法学政治学研究科長
山 下 友 信