第6巻の刊行にあたって

本年度もここに東京大学法科大学院ローレビュー第6巻を刊行することができた。この第6巻には,厳正な審査の結果,学生諸君の投稿論稿4編が掲載されている。掲載数は前年度の6編よりも少ないが,いずれも高い水準の力作であり,引き続き法科大学院生諸君が研究に対する強い関心と研究を遂行する高度の能力を示していることを,法学政治学研究科長として心強く思う次第である。

本ローレビューは,法曹養成教育を任務とする東京大学法科大学院において,既存の理論や実務に習熟することにとどまらず,未解決であったり,これから新たに生ずるであろう社会的課題について,法曹として正面から取り組んで,解決を図って行くという創造的な能力を涵養する手段として,学生諸君に論文等を執筆してもらうことを促進する趣旨で創刊されたものである。また,米国のロースクールのローレビューをモデルに,投稿された論文等の掲載の可否を,学生諸君が編集委員として審査するというシステムを導入したが,この審査も当該テーマに関して執筆者以上にリサーチし,内容について評価を下すという高度な研究活動ということができる。

このように本ローレビューは,法科大学院における高度の研究活動の手段であることから,論文が掲載された者および編集委員を務めた者で,東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻の博士課程に進学し,または助教となり,法律学研究者としての途へ進んだものが少なくないことは,ある意味では自然なことである。しかしながら,2004年度の法科大学院創設の前と比較すると,法律学研究者の途に進む者が大幅に少なくなっていることは否定しがたい。このような状態は,本研究科にとどまらず,わが国で法律学研究者を養成してきた主要な大学に共通してみられるところであり,これから10年,20年先の法律学の研究・教育を考えるときわめて大きな不安を感じざるを得ないところである。

このような状況を打開すべく,本研究科においては,本年度より,「法科大学院教員養成プログラム」を開始し,法科大学院修了者が博士課程に進学する場合における経済的負担を軽減し,また3年の在学期間に博士の学位が取得できるようにするための指導体制の強化を図るとともに,法科大学院においても,学生諸君に従来以上に研究に関心を持ってもらい,博士課程への進学や助教への就職後の研究活動にスムーズに移れるようにするための様々な試みに着手している。本ローレビューは,法科大学院創設以来刊行を続けているが,法科大学院生諸君に研究への関心を持ってもらうには最適なツールであり,来年度の第7巻の刊行に向けて,これまで以上に論文が投稿されるようになることを祈念している。

本巻には,学生諸君の投稿論文に加えて,東京大学法科大学院教員の執筆した9編の論文も掲載されている。この点も,第1巻以来のことであるが,当初は,法学協会雑誌および国家学会雑誌という東京大学大学院法学政治学研究科・法学部の研究成果の公表を目的とした刊行物に投稿資格のない実務家教員の論文掲載の場としてスタートしたものの,次第に研究者教員の論文掲載も増加しつつあり,本ローレビューは,東京大学大学院法学政治学研究科・法学部の研究活動の中でも重要な意味を持ちつつあり,この面でも本ローレビューは将来においてさらに発展する可能性を秘めているものといえよう。

投稿者,編集委員のそれぞれの努力の結果,本巻が刊行されるに至ったわけであり,この点について研究科長として心からの感謝の意を表したい。

2011年9月
東京大学大学院法学政治学研究科長
山 下 友 信