第9巻の刊行にあたって

2006年に創刊された東京大学法科大学院ローレビューも,このたび第9巻の刊行を迎えることができた。本誌創刊当時の法学政治学研究科長であった高橋宏志教授は,創刊号の巻頭言で,本誌は直ちに米国流のローレビューを指向するのではなく,法科大学院の教育という観点から学生に論文発表の場を提供することを主眼とする,といささか控えめな目標を掲げつつも,将来研究者教員を含む教員の寄稿が増大した場合に本誌が刊行物としてもつ意義は,学生を主体とする編集委員会が決めていくべきであると,将来の可能性を展望されている。

この間の本誌の内容を概観してみれば,当初の目標は十分に達成されているということができよう。今年も法科大学院学生より21編の投稿があり,そのうち3編が掲載されることになった。司法試験や法科大学院をめぐる多くの問題が指摘されている中で,東京大学法科大学院の学生諸君が積極的に学術的な論文執筆に努めていることは誠に喜ばしい。

本誌の創刊当初の目標が控えめであると述べたが,米国のローレビューも決して最初から現在のような意味を持っていたわけではない。試みにアメリカで最初のアカデミックなローレビューの一つであるハーバード・ローレビューの創刊号(1887年4月15日)を繙くならば,創刊の意図について説明する短い文章のなかで,学生編集者たちは同誌の当面の目標を,ロースクールで行なわれている活動を明らかにし,同校同窓生が関心を持つであろうニュースを提供し,もし可能ならば,法学教育に関心のある全ての人にハーバードの教育システムのもとで行なわれていることのイメージを与えることであるとした上で,「しかしわれわれには,本誌が法律プロフェッション全体に役立ってほしいという希望もないわけではない」と付言している。最後の一文も印象深い。「われわれの目指すところは,……上で述べた線に沿って本誌を発展させることである。もし成功するならば,われわれのプランに従って領域を拡大するだろう。もし失敗しても,少なくとも,われわれの活動がロースクールとその同窓生の利益のために誠実に行なわれたと信じられるという満足感は抱けるだろう」(p.35)。謙虚な言葉の割には実際の内容が豊富なことに驚かされるのだが,それはともかく,このようにして127年前に創刊した同誌(ちなみにこれは『国家学会雑誌』創刊の年,『法学協会雑誌』創刊の3年後である)がアメリカを代表する法学雑誌に成長しえたことが,ひとえに代々の学生編集者たちの情熱とたゆみない努力の賜物であることに疑いの余地はない。東京大学法科大学院ローレビューも,同じように,編集委員をはじめとする法科大学院の学生諸君全体に支えられて,更に大きく発展してほしいと願っている。

2014年8月
東京大学大学院法学政治学研究科長
西 川 洋 一