第10巻の刊行にあたって

東京大学法科大学院ローレビューが,記念すべき第10巻の刊行を迎えた。誠に慶賀すべきことである。

第10巻には法科大学院学生から13編の応募があり,学生を中心とした編集委員会による厳正な審査に基づき,その中から2編採録された。これに加えて,教員から4編の投稿があった。多忙きわまりない勉学生活を送りながら自主的な研究を進め,論文を執筆して投稿した多くの学生諸君,そしてアメリカとは異なり,学生主体の編集チームにかかる一流法律雑誌という伝統の全くない環境の中で着実な発行を支えてきた歴代の編集委員の皆さんのご努力に,心より敬意を表したい。

しかしもとより,アメリカでも,ローレビューは最初から現在のように重要な意味を持った刊行物であったわけではない。第11代アメリカ連邦最高裁長官Charles Evans Hughes (1862-1948)は,イェール・ロージャーナルの第50巻巻頭言で,かつての先輩判事Oliver Wendell Holmes Jr. (1841-1935)に関する想い出として,あるとき法廷で弁護士がローレビューに掲載されたケースノートを引用したのに対して,Holmesが「それはwork of boysに過ぎない」と言ってたしなめたことを伝えている。「彼(=Holmes)は,自分が判決意見の中で述べたことを,学生が褒めて,それは『法の正しいステイトメントである』などと言うのは,いくら何でも行き過ぎだと考えたのである」。このエピソードは1910年頃ないしそれ以後のことと思われるので,学生の編集によるローレビューの先駆けであるハーバード・ローレビューの創刊以後すでに約四半世期を経ていたことになる。

しかしこれに続けてHughesは,その後良いローレビューのケースノートや論文に対する評価が如実に高まったことを強調し,そして,いまや慎重な判事ならば,難件に直面したとき,その問題がローレビューで議論されていないかまずチェックすると言っても過言ではない,とすら述べている(50 Yale L.J. 737 (1941))。すなわちアメリカでも,大学のローレビューがその真価を認められるためには,数十年の長きを要したわけである。

東京大学法科大学院ローレビューが,今後10年,20年の間にいかなる発展を遂げるかは,ひとえに著者及び編集委員としてそれを担う学生諸君の努力にかかっている。本研究科としては可能な限りのサポートを続けていきたいと考えているので,皆さまにもこれまで以上に多くのご支援をお願いしたい。

2015年8月
東京大学大学院法学政治学研究科長
西 川 洋 一