第16巻の刊行にあたって

東京大学法科大学院ローレビュー第16巻をここに刊行することができた。第15巻に引き続き,コロナ禍の中,大学の活動に様々な制約があるもとでの刊行であり,無事ここに至ったことの慶びは大きい。

振り返れば,本巻の編集にあたる第16期編集委員会が発足した昨年12月初めは,新型コロナウイルス「第3波」の感染がじわじわと拡大してきた時期であり,その編集委員会によって設定された投稿募集期間(本年3月19日締切)は,「第3波」のその後の急拡大を受けて2回目の緊急事態宣言が発出されていた時期とほぼ重なる。「第4波」と3回目の緊急事態宣言,「第5波」と4回目の緊急事態宣言を経て,本巻の刊行を迎えた。この間,初めての緊急事態宣言が発出された昨年度当初のように大学が閉鎖状態に陥ることこそなかったが,例えば,研究活動の支えである法学部研究室図書室について見ると,夜間及び休日は閉館が続き,また,平日昼間の開館時間も,通常であれば午前9時〜午後5時のところ,学内外のウイルス感染状況と全学指針に基づく活動制限レベルとを踏まえ,幾度か,午前10時〜午後4時への短縮措置がとられた。

このように,投稿者にとっても,編集作業者にとっても,厳しい環境下にあったにもかかわらず,コロナ禍以前と変わらないスケジュールで本巻の刊行に漕ぎ着けることができたことは,関係諸氏の熱意と努力の賜物であり,この場を借りて,心から敬意と謝意を表したい。

さて,ローレビュー第1巻の巻頭を飾る「創刊の辞」において,当時の高橋宏志研究科長は次のように述べている。

「専門職大学院である法科大学院が法曹としての基幹的能力を育成することを任務とすることはいうまでもないが,このことは法科大学院での法曹養成教育は,学生が既存の理論や実務に習熟できるようにすることに尽きるということを意味するものではない。むしろ,いまだ未解決であったり,これから新たに生ずるであろう社会的課題について,法曹として正面から取り組んで,解決を図っていくという創造的な能力の涵養こそが究極の法科大学院教育の目標でなければならない」。

このような本学法科大学院の教育理念・目標のもと,学生の自主的な研究やリサーチ,論文執筆を慫慂する趣旨で,ローレビューは刊行されてきた。第16巻となる本巻には,法科大学院学生からの投稿が13編あり,編集委員会の厳正な審査を経て,そのうちの5編が掲載された。

近年の学生による投稿件数と掲載件数を振り返ると,第11巻は投稿16編,掲載4編,第12巻は投稿16編,掲載2編,第13巻は投稿10編,掲載1編,第14巻は投稿14編,掲載3編であったが,昨年度刊行の第15巻は投稿7編,掲載1編であり,投稿件数が急落した。第16巻の刊行過程を振り返ると,第15巻のとき(投稿募集期間の終了後にコロナ禍が深刻化)と比べ,投稿者の投稿環境には,より一層厳しさが増したと思われるが,投稿件数は回復し,掲載件数は近年最多となった。

本年度は,本学法学部において,「法科大学院進学プログラム」(法曹コース)の運用が始まった。法科大学院では,11月実施の2022年度入学者の選抜試験から,法曹コース修了者を対象とする特別選抜が開始され,やがて2023年度からは,司法試験の在学中受験が可能となる。法科大学院教育は新局面を迎えるが,それに先立ち,ローレビューにおいて,本学法科大学院の教育理念・目標の確かな息づきを示す上記の数字が得られたことは心強い。

昨年度の「第15巻の刊行にあたって」では,「COVID-19の早期終熄と今後の投稿件数の回復・増加」を念じたが,後者がひとまず「回復」したもと,改めて,コロナ禍の一刻も早い終熄とそのもとでの本学法科大学院教育の一層の活性化を念じつつ,本巻を世に送り出したい。

2021年10月
東京大学大学院法学政治学研究科長
大 澤   裕